はじまりはいつも恋

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   夏菜子に連れられてやってきたのは、中野だった。あまり立ち寄ったことはなかったが、昭和の空気を残す商店街、多国籍な飲食店、たくさんの色でペイントデザインされた壁面──国籍を感じない街だという噂どおり、さまざまな国の人たちが行きかう雑多な場所だった。  住宅街と労働者の町が境目なく混ざった通りをふしぎな気持ちで歩いていると、夏菜子は「ここです」とあたしを振り返る。  夏菜子が足を止めたのは、古めかしい建物の前だった。レンタルトランクルームのような、倉庫のような。人が集まる場所に連れていってくれるというから、てっきりマッチングバーみたいなところだと思ったのに。 「お店? 看板もなにもないけど……」 「看板なんて出したら、来るべきじゃない人が間違って入ってきてしまうじゃないですか」  夏菜子はしれっと非日常なことを言った。 .
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