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「坂田仁志くん、知ってるよね。あたし、彼のこと高校生の頃からずっと好きだったのね」
「……長すぎない。仁志くん、結婚してるよ?」
「そうなのよ。自分でも困っちゃって。坂田のこと好きすぎて、彼が選んだ人のこともちゃんと知るのが怖くて、見ざる聞かざるを貫いちゃって」
「人生の半分かー。重症だね」
光くんは箱からシュークリームを取り出し、おもむろにかぶりついた。だれに教わったわけでもないだろうに、その仕草が斉木守そっくりで、一瞬鼻の奥がツンとする。
「そう……だからここらで一度、彼の奥さんのことをちゃんと知って、ふんぎりをつけたいなと思って……」
「うん……? それでオレはなにをすればいい。陽香さんの話を聞きたいの。それとも会ってみたいの」
ハタとめぐみの顔を見ると、心配そうにあたしたちの顔を交互に見ている。
「ずいぶん話が早いわね」
「まだるっこしいの、苦手。学校では答えの決まってる数学が好きだよ」
光くんは子どもにしてはシニカルな笑みを浮かべた。その表情で、さっきからの違和感に答えが出る。
坂田がどうでもいい相手によくする表情だ。
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