命長ければ恥多し

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   そろそろ待ち合わせ時間が迫っていて、先にカフェに入るべきかどうか迷っていると、濃いブラウンのポンチョコートを揺らしながらやってくる小柄な女性が見えた。肩までのつややかな黒髪を翻しカフェに入っていく姿は、記憶の中に焼きついていた花嫁だった。  何年も経っているのにひと目でわかってしまうなんて、もはや恋なのではないかと自分を疑ってしまう。  時間までにはもう数分あったが、人を介してまで呼びつけたくせに遅れて行くような女だと思われたくなくて、急いでそばの横断歩道を渡りカフェに足を運んだ。  ドアを開けて中に入ると、席についたばかりであろうその人はドアベルの音に反応し、顔を上げた。 「長倉さん、こっちです」  カフェ店員よりも先にあたしをちゃんと見つけ、いちいち腰を上げて手を振ってくれる。覚えていたのはあちらも同じらしかった。 「すみません、お待たせして」 「だいじょうぶです。私も、いま来たところなんで」 .
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