命長ければ恥多し

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   席につきコートを脱ぐと、陽香さんはちょっと楽しそうな顔でメニューを抱えていた。 「なに飲まれますか? ここ、ホットだとティーラテがおいしいんですよ。スパイスを入れてくれるので、チャイみたいで」 「そのお勧め飲んでみたいです」 「よかった! じゃあ……すみませーん。ティーラテ、ホットでふたつお願いします」  流れるような動作でメニューを閉じ、テーブルの隅に置いてしまう所作に一瞬見とれた。 「……きれいな所作ですね」 「え、ほんとですか。褒められちゃった……ありがとうございます」  恥ずかしそうに微笑む陽香さんは、ぱあっと咲いたように表情が明るくなる。  あたしも、子どもなんかじゃない。それだけで、わかってしまった。 「なん……か、参っちゃったな……。色んな覚悟をして、今日ここに来たん、です、けど……」 「長倉さん?」  シアワセナヒトというのは、その姿かたちだけで、なんとなくわかってしまうものだ。 .
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