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「来るべきじゃないって? それってふつうに入っちゃだめってこと?」
「秩序を保つには、線引きって必要だと思うので」
「それはそうだろうけど」
思わず眉を寄せると、珍しく緊張しているのか、夏菜子は小さく深呼吸をした。
「このドアの中に入ったら、私の趣味を長倉先輩と共有することになりますけど」
「共有?」
同じ意味のはずなのに、「シェア」と言われるよりいくぶん重く感じて、ちょっと身構えてしまう。
「気安く、他の人には言わないでくださいね」
続いた言葉は意外に小学生女子のような不確かな口約束で、こっちの緊張はゆるんだ。
「う、うん。わかった」
夏菜子は無言であたしの目を見てうなずくと、真っ赤な鉄のドアをゴンゴンとノックする。そう力を込めた様子はなかったが、思ったより大きな音がして驚いた。
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