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「坂田、陽香さん。あたし、長い間あなたに言いたいことがあって……」
目と鼻の奥がツンと痛くなってきて、思わず片手で顔を覆う。陽香さんは一瞬眉をひそめたが、すぐに心配そうにあたしを覗き込んだ。
「聞きます、聞きます。だいじょうぶです、話しましょう。長倉さん」
テーブルの上に置かれた陽香さんの両手が軽く握られていて、彼女の真摯さが伝わる。だが同時に、年齢のわりには可愛らしすぎるその仕草に毒気が抜かれた。
「すみません、だいじょうぶです。こんなところで泣いたりしないです……ぷっ」
「えっ、なんですか? ええ、どうして笑うんですか?」
「だっ、て、両手握って……可愛すぎませんか」
そのまま笑い出したあたしを見て、陽香さんは恥ずかしそうに両手をテーブルの下に隠した。そうやって縮こまる姿さえ可愛らしくて、あたしはさらに笑ってしまった。
わかるよ、坂田。あなたがこんな女性を裏切るわけがない。
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