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「……うちの人のことで、なにかあるんじゃないですか?」
ふとテーブルに沈黙が降りてきたタイミングで、陽香さんはあたしの目を見ながら切り出した。心の近くをふいに踏まれて、呼吸を止めてしまう。
陽香さんは、なにか持てあますような笑顔を見せた。
「お話、楽しかったから。このまま帰ってしまってもいいかとも思ったんですけど……わからないことをわからないままにしておくのは、苦手なんです」
「あ……の、ええと」
「いいです、言いにくいならそれでも」
完全に言葉に窮したあたしに、陽香さんは続ける。
「私の言葉が不愉快に感じられたらごめんなさい。今日みたいなことは、たまにあるんです。あまり親しくなかった方に呼び出されるのは、長倉さんがはじめてではなくて」
「えっ?」
「蓮見先生、覚えてらっしゃいます? いまは、桐谷先生なんですけど」
「ハスミ……!? 覚えてますよ! たった2週間しかいなかった教生のくせに、男なら生徒にも教師にも色目使ってた女豹……!!」
思わず口走り、ハッと口をつぐんだ。
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