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「……とは言っても、私も意地悪が過ぎているのかも知れないです」
伏し目がちの陽香さんは、どこか空虚な声で言った。
「え? い、意地悪って……?」
「覚悟を決めているとはいえ、そういった煩わしさに、私が腹を立ててないわけがないじゃないですか」
「……たしかに」
これは、もしかしたらずっと坂田を想っていたあたしにしか思えないことなのかも知れないが。
坂田は、10代の頃からとにかく女関係の尽きなかった男だ。
どんな女も坂田のことを引き留めることはかなわなかったし、そのせいであたしだって彼にはさんざん泣かされた。
そんな坂田が心を決め、この人きりだと選んだのが陽香さんという女性なら、せめて意地でも幸せでいて欲しいし、陽香さんのことを悲しませたり泣かせたりはしないで欲しい。
せめてそれが叶わないのだとしても、彼女のことを守ろうとする気持ちはいつでも持っていて欲しい──なんて。
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