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「だからわざと、子どもに気を取られているフリをしてるんです」
「え!?」
陽香さんは、つっかえが取れたとばかりに顔をほころばせ、肩をすくめた。
「だって、くやしいじゃないですか。結婚って、もうほかの異性とは親しくしません、っていう約束をしていることでもあるのに。私はちゃんと守っているのに、彼はいつまでも若い人みたいに、よその惚れた腫れたに振りまわされてるなんて」
テーブルに肘をつき、陽香さんは少女のように口をとがらせる。
「そ……れは、いま聞いたらそうですねって思いますけど。ただ寄ってくるだけとはいえ、外の女の人……こわくないんですか?」
「心配じゃないって言ったら、もちろんそれは嘘になっちゃいますけど。彼がどこへも行けないこと、私は知っているので」
ずくん、と心臓が熱くなった。嫉妬で苦しいわけじゃない。
こんなふうに真っすぐに人を信じることのできる陽香さんと、坂田夫妻の絆のことを、素敵ですごい、と思っただけだ。
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