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「ほかの女の人のことを聞いて、落ち込むだけの日々には疲れてしまって。だから、わざと守のことを小さい恋人みたいにして、それで手いっぱいにしてるんです。彼がきちんと向き合ってくれたら、仲間に入れてあげるつもりなんですけど」
「……え? 待ってください。守?」
あたしの驚きを察して、陽香さんはやさしく目を細めた。
「うちの子です。守って名付けました。ずっとずっと、斉木くんのことを忘れないように」
思わず、目頭が熱くなった。
陽香さんは、なにもかも承知で坂田といっしょにいるんだということだ。
人懐こいようでだれからも線を引いていた坂田の複雑な性格のことも、同級生しか知らないのだろうと思っていた斉木守のことも。
あたしの人生に、こんなに人のことを信じたり、理解したりがあっただろうか。
急にいままでの自分の恋愛がごっこ遊びだったような気がしてしまって、色褪せる。
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