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ドアスコープと呼ぶにはあまりにレトロな覗き穴がスライドで開き、軋んだ音がした。緑色の目がぬっとあらわれ、「ひっ」と声を漏らしてしまう。
「レギュラーカスタマー?」
巨体の格闘家のような低い声にも怯んだが、黒い肌の外国人だったのだとようやく合点がいった。
「そう。こんばんは、アール。入れて」
慣れた様子で夏菜子は微笑む。昼のオフィスでは見ることのない夏菜子の笑顔にも驚いてしまう。中に入るころにはあたしの心臓は止まってしまうかも知れない。
「フム」
レトロな覗き穴はすぐに閉ざされ、代わりに真っ赤な扉が開かれた。
「いらっしゃいませ」
想像よりキュートな笑顔で、背の高い黒人さんが迎えてくれた。あたしたちは特にチェックをされることもなく、スムーズにエントランスに入ることができた。
「あれはただの形式なんです。そこらへんの日本人は、英語で話しかけられたらすみませんって逃げますから」
「確かに」
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