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いままで縁のあった人たちに大して愛されてこなかったのなんて、当然じゃないか。あたしのほうこそ、大して愛していなかったのだから。
ひとりの相手と向き合い、時間を紡いでいくのはきっとあたしが想像する以上に大変なことなのだ。陽香さんと会って話して、そう思った。
そこまで考えたとき、コートのポケットの中でスマホが震えた。
『連絡、遅くなってごめん。明日の昼とか、どうかな』
このタイミングで連絡してきた坂田が少し間の抜けた男に感じられて、思わずマフラーの中で吹き出した。
学生時代、あれだけ王子様然としていた坂田仁志は、奥さんの手の中で上手に転がされているただの男なのだ。まあ、勝手に王子様視していたこちらにも非はあるわけだが。
休日、子どもの面倒を見ながら、どんな顔してあたしにこんなメッセージを送ってきたのだろうか。いかがわしい感情などないことは百も承知だが、話をしたいという動機を考えれば、堂々と話せるようなことでもないだろう。
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