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坂田から指定されたのは、新宿駅前にあるコフィスだった。エノモトさんと会っていたコーヒーショップと比べて、色気もなにもあったもんじゃない。
陽香さんと会ってすっきりした気持ちになれたいまではなんとも思わないが、一昨日くらいまでのあたしだったら、あまりに軽く扱われている気がしてさめざめと泣いてしまったかも知れない。
コーヒーショップにありがちな喧騒はあまりなく、小さなBGMとたくさんのタイピング音、そして隅っこでだれかが電話をしている声だけが響くコフィスの奥のほうに坂田はいた。
ランダムにやってきたひとり客用のカウンター席はゆるく弧を描いていて、互いの手元に無関心になれるレイアウトだった。同級生同士が忙しい時間をぬってやってきてちょこっと話すぶんには、じゅうぶんな空間だ。
「長倉、こっち」
「お待たせ」
「いいよ。俺もさっき来たところだから」
坂田のとなりに座り、LED蛍光灯の下で彼の顔を間近で見るなりぎょっとした。明らかに目の下が落ちくぼみ、疲れきってこの前より10歳は老けて見えたからだ。
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