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行き場のない気まずさは、メニューに手を伸ばしても薄まらない。
「あの……ね。あたしは坂田と友達でいたのが長すぎて……エノモトさんみたいな行動力って、もう持てないんだけど」
「……うん。だから長倉のことは友達だと思えた」
坂田の声が、疲れに加えて少し沈んだ。沈んだぶん、あたしに対しての思いやりのようなやさしさがあるのかも知れない。
あたしがそこを踏み越えようとした瞬間消え失せてしまうような、はかないものでしかないのだろうけど。
「いまになって思うんだけど、それってちょっとラッキーなことだったのかも知れない。友達なら、坂田はちょっと雑なところも見せてくれるし、頭から拒絶されることもないし」
「……それは、長倉が抑えていてくれたからだよ」
「冗談で流してもらう以上の痛手を受ける勇気がなかったから」
心の中で、坂田の腕の中に迎え入れてもらえそうになったあの夜の微熱が広がっていく。
友達でいたかった。
彼女になりたかった。
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