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エントランスは、中世のヨーロッパの貴族宅のようだった。床にはよくわからない模様の絨毯が敷き詰められ、壁は明るいブルーグレー。すみっこにはアールさんの休憩用だろうか、数本のペットボトルが転がったダークブラウンのローテーブルと、白いチェスターがひとつ置かれている。
さらに中に入るためのドアの周囲には、重そうなベルベットのカーテンが飾られていた。女王様が寝室で使っていそうな、深紅色の。
見た目は倉庫なのに、エントランスだけでこれっていくらかかっているものなのだろうかと下世話なことを考えた。もしかして、ドリンク1杯で3万円とかとられたりするんだろうか。
あたしの杞憂をよそに、夏菜子は手を引いてくる。よほどしっかりした造りなのか、中の音はまったく聞こえない。
「先輩、入りますよ」
「あ、うん……」
ためらう様子などなく、夏菜子はそっとドアノブをつかみ開けた。
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