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ありがたい比較に思考を没頭させたのは、背後の怨霊めいた存在から意識をそらしたかったからかも知れない。
目だけ動かして坂田の顔を見ると、彼はやっぱりさめた顔であたしの背後を見つめていた。
……えっと、後ろにいる人、さっきなんて言ったっけ……。
『どうしてこの人といっしょなんです』
メニューを持つ指先が冷たくなってくるのを感じて、息を飲んだ。
逃げたい。いますぐここから逃げ出したい。
「昨夜もずっとメッセージ送ってたのに、見てもくれない……」
「深夜に迷惑だったので。通知切ってからなにも見てないです」
「ひとことお返事くれれば……! 私だってあんなにしつこく……」
「へえ。しつこいって自覚あったんですね」
ふたりのやりとりを聞きながら、心臓が凍りそうだと思った。
坂田は身内以外には冷たい男なんだろうとうすうす感じてはいたが、ここまで……。
「忘れられないんです! それなのに一方的に! ひどい!」
「……。大きい声出さないで。忘れられなくなるようなことなんてしてません」
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