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「忘れたんですか!? はじめて出会ったとき、目が合いましたよね。坂田さんは私にやさしく微笑んでくれた」
肩に、ぎりぎりと細い指先が食い込む。長いネイルがないので、エノモトさんが若い女でなくてよかった、と思った。
「……保護者の方には基本愛想よくしているので」
「違うでしょう!? あの笑顔は、私だけに向けられたものだった。ほかのお母さんにはそんな態度見せなかった!」
肩は痛いが少しだけ同情してしまい、振り払う気にはなれなかった。
あたしの目の前にいる坂田も同じような感情を抱いたのか、せつなげに目を細める。
が、坂田はうつむいてかぶりを振った。
「前から思ってましたけど、エノモトさん。思い込みが激しすぎやしませんか」
「え……?」
坂田はうんざりした顔で手を伸ばし、あたしの肩からエノモトさんの手を軽く払った。邪魔なものを避けるように。
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