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どうしてか、坂田の顔に気まずさが過る。
「なに? ちょっとえらそうだったかな、ごめん」
「いや……言われてみればそうだなと思って。ありがとう、長倉。ちょっと視点を変えてみるよ」
一瞬の戸惑いのあと、まだ疲れた顔の坂田の目に強い意志があらわれたのがわかったが、ここからはあたしが入る場所ではないのだろうと思う。
「よくわからないけど、何か役に立てたならよかった……」
「いいや。こちらこそ。今日は長倉がいてくれて、ほんとに助かったよ」
「うん?」
「そろそろ俺がひとり出歩けば、エノモトさんが尾けてくるのはわかってたんだ」
「え? どういうこと……?」
「ヒステリー起こしてる女性相手に、ひとりで対峙するのはさすがにこわくて……」
「待ってよ、あたしのこと利用したの!?」
「用件が一度で済むと思ったんだ。エノモトさんも暴れなかったし、昔なじみのよしみで許してよ」
「なんでそんな頭は回るくせに、奥さんのことに対してはからっきしなわけ!?」
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