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その瞬間、多くの人間の楽しそうな喧騒がどっと押し寄せてくる。低く流れるジャズの音をかき消すほどの。
天井に君臨するシャンデリアは夜のクラゲの発光のように青く輝いていて、いかにも現代のものだ。それとは裏腹に内装はエントラスの趣味と同じ中世のヨーロッパの貴族のサロンという感じだった。その時代に関する興味も学もないあたしでも、その価値がわかる程度にはよさそうなものだ。
その空間にいるのは、夏菜子が言った通り“いろんな人間”。高そうなシャンパングラスを手に飲むTシャツ姿の人も、安っぽく煙草をくわえるビジネススーツ姿の人も、男女さまざま。いったいなんの場所なのか、定義づけるのは難しそうだ。
そして、足を踏み入れた瞬間にわかる淫靡なムード。ここは迂闊に人に話していいところではない。
「……目がくらみそう」
「長倉先輩、ここでのルールはひとつだけ」
「え?」
夏菜子はあたしの腕に自分の腕を絡ませると、そっと耳うちしてくる。
「なにが起きても自由意志。それだけ」
「え……」
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