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それに、“あたしはあたし”が成立するってことは、“はるやははるや”で。
……今日はるやが出会ったというオンナだって、もれなくそういう感じで唯一無二なわけで。
視点を変えるだけで、人もモノも価値の重みはガラリと変わってしまう。代わりが利かないっていうのは、平たく言えばそういうあやふやな話だ。
欲望の代替品にされたことよりも、そっちのほうにしくりと胸が痛んだ。
玄関ドアを開けた瞬間、飛び込んできたときのはるやの目をまだ覚えている。あんなに切羽詰まったはるやを見たのははじめてだった。
要するに今日出会ったオンナさんは、はるやをそこまで高めることができる存在ってことだ。
さぞかしきれいで素敵な人だったのだろう。そう思った瞬間、覚えのある敗北感とくやしさが胸に広がった。
坂田が結婚すると聞いた、あの日もこんな思いをした。
──ああ、なんだ。
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