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夏菜子は別人のように妖しく微笑み、フロアに視線を流す。高そうなカウチで男性の膝の上にまたがり、キスを返す女性が目に入る。他人の生のラブシーンを見るのははじめてで、思わず何度も瞬きをした。よく見ると、男女と言わず同性同士でもぺったりくっついているカップルっぽい人は他にもいた。
いちばん衝撃なのは、周囲の人たちがそれをなんとも思っていない様子であるところだ。
「自由意志ってそういう……」
「まあ、これが私の趣味です。楽しんで」
「え、ちょっと、夏菜子……!」
夏菜子はスルリとあたしから離れ、喧騒の中になめらかに溶けていった。
そんな宣言をされたって、いまだにここがどういう場所なのかわからないのに、どうしろと。
官能的な空間に放り出され呆然と立ち尽くしていると、あとから入ってきた人がぶつかってきた。
「……っと、すみません」
「あ、こちらこそぼーっとしてて、すみませ……」
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