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「僕ね、基本他人には興味がないんだけど」
「知ってるけど……?」
「関わったことのあるだれかがちょっと様子が違うと、どうにも気になってしまって」
「サル山のボス猿精神ね、お疲れさま」
「ああ、そういうことなのかなー。言いえて妙」
「あたしにはかまわなくていいから」
「まあ、そう言わずにボス猿の話も聞いてよ。長倉、最近なにか思い悩んでるのがだだ漏れっていうか。無駄に色気振りまいてるから気をつけなよ」
「え?」
「悩んでる人間は、他人には美しくて隙だらけに見えるの。じゃあ僕、いちおう言ったからね」
長谷川はポケットに手をつっこみ、にこやかに経理部をあとにした。みんながコーヒー休憩に立ったのを見計らってきたのだとしたら、相変わらずそつのないやつだと思う。
長谷川が置いていった資料にぼんやり視線を落とすと、コーヒーヌガーの一口チョコレートがころんと1個乗っていた。
長谷川は人たらしでサディストなので、他人のことをよく見ている。だれが置いていった、なんて考えるまでもなかった。
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