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ぶつかった人は泣き出したあたしに動じることなく手を取り、フロア内の階段を上がって奥の部屋に案内してくれた。下のフロアとは違い、雑誌やテレビでよく見る、デキる人が住む殺風景な部屋。倉庫のような外観とは裏腹に、どれほどの改装を施したのか、そこらへんの賃貸マンションより高ランクの居住スペースに見えて驚いた。
シンプルなカウチに座らせてもらい、やっとふつうに呼吸ができるようになった。
「気にせんでええよ。ここに来るのはみんな、人に言えんこと持っとる人間ばかりやし」
そう言って、彼はおだやかに微笑んだ。
リアルではあまり耳にすることのない関西弁は意外だったが、少し鼻にかかった中音の声さえも坂田に似ていた。本当にあたしは救いがない女だ。
「ごめんなさい。あなたがあんまり、似てたから。すごく好きだった人に」
「え? おれ?」
彼はきょとんとまばたきをする。
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