はじまりはいつも恋

27/40

423人が本棚に入れています
本棚に追加
/200ページ
   レーヤに手を取られ、さっきぼんやりしながら上がってきた階段を下りる。  フロアを少し冷静な頭で見ると、天使を象った石膏像に抱きついてぼんやりしている人、床で足を投げ出してひたすらチキンを貪っている人、カウンターバーでバーテンダーと談笑している人、ラブシーン真っ最中のカップルをただニヤニヤとながめる人、カウチで眠り込んでいる人がいた。なんと、フロアのはしっこで油絵を描いている人もいる。モデルはもちろん、この場そのもの。  本物の非日常だと感じさせるのは、無秩序に見える人たちをほかのだれも咎めず、非難の目も向けず、それでも場が保たれているからだった。現代日本では、自分の部屋でもない場所でこんな奔放は許されないのがふつうだもの。  階段を下りていく途中、少し下にあるレーヤのうなじに目をやった。切りそろえられた隙のない襟足は、きっとまめに手入れされているのだろう。 .
/200ページ

最初のコメントを投稿しよう!

423人が本棚に入れています
本棚に追加