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彼は自称サラリーマンだが、レーヤと名乗ったのもどうせ偽名だ。どう考えてもプロの男。そんな人がなぜあたしに興味を持ったのかはわからないが。
なにを目的に定めたのか、レーヤはあたしの手を取ったままどんどん進んでいき、フロアを出てエントランスを抜ける。
「アール、おれたち失礼するよ」
「ご利用ありがとうございました。またのお越しを」
アールさんはあたしとレーヤに軽く視線を流し、自然な笑顔で会釈してくれる。人当たりのいいその仕草でつい返したが、支払いはどうなっているのだ。
気づけば、背後で真っ赤な鉄のドアがガショーンと重い音を立てて閉ざされていた。
「さ、どこ行こ。なにしたい? 腹は減ってる?」
「なにしたいって言われても。……お腹は空いてるけど」
「じゃあメシ食いに行こう。フォビドゥンでもメシは食えるけど、ここは酔うところやし。どうしても酒のアテしかないから」
「フォビドゥン?」
訊き返すと、レーヤは振り返って今出てきた建物をしゃくった。
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