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「ここの名前や。意味は禁忌。ふつうの人は来んといて、ってこと」
「禁忌……」
ふだん聞かなさ過ぎて、あたしにはどこか遠い響きを持った言葉だった。
ぼんやり建物をながめていると、レーヤはクイと手を引いてくる。
「さ、行こ行こ。日本人はたんぱく質が足らんってよく聞くから。働く女の人にヘルシーで満たされるメシ食わすの、おれ大好き」
なんとなくだが、温度を感じる言いかただった。こういう人、本当に珍しい。
「こういう状況、慣れてるのね」
「隠したってしゃあないやろ。おれは根っから女の人好きやから。でも慣れてるわけやないで」
「嘘ばっかり」
「ほんまほんま。人間、ひとりとして同じもんはおらん。たまたま女のくくりで狭めてみたからって、シンプルになるもんやない」
「そりゃそう、だけど。そんな言いかたする人、はじめて会った」
「そうか?」
足元をヒュルンと吹き抜けていく風は、立春を過ぎたばかりとはいえまだまだ冷たい。今日たまたま忘れてきてしまった手袋のことを思い出す。
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