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「なんとなく暮らしてて、いまレーヤが言ったことを感じる部分みたいなものはあるんだけど。言葉にするってなるとまた違う能力がいるというか」
「あー、まあね。頭の中のことを言語化するのは難しいって、大学時代よう思たわ」
「言語化、そう。それ。あたしもレポートとか苦手だった。重複表現が多すぎるって突っ返されて、なんのことかわからなかったくらいバカだった」
「はは。わかるわかる。いまだに、大学は文章書くのを訓練する場所やと思ってるわ」
レーヤの手は季節の風の中でもあたたかくて、新鮮な気持ちになった。
大人になってからというもの、恋愛の過程なんてものは記号化されていく一方だったことを思い出した。3秒見つめたら好きとか、よこされる視線にうなずいたら応じてるだとか、キスのとき手を添えたらその先もオッケーだとか。
男とただ手をつなぐだけなんて、いつ最後にしただろう。酒の席で争ってきたのは、どちらが誘ったかというつまらない定義づけばかりだ。
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