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レーヤに手を引かれて夜道を歩きながら、ぼんやりと思い出す。
人生の岐路は高校の卒業式の夜だ。あたしの高校生活は、坂田への恋心でいっぱいだった。だから、あれが最後のチャンスだったのだ。クラスのみんなで飲んで、騒いで。そんな中で、酔った坂田は少しだけあたしに心を許してくれた。
かなわないことは知っていたけど、本当は彼女にして欲しかった。一度だけでも想い出が欲しかったから、わざと化粧室の洗面台を選んで坂田を誘った。あたしのわがままを、彼の中で重い出来事にして欲しくなかったから。
坂田はあたしを抱きしめてはくれたけど──すでに飲み過ぎていた彼は、本当の意味でその気にはなってくれなかった。
あのとき坂田が飲みすぎていなかったら。あたしにもっと彼をひきつける魅力があったら。……もし、あのときひとつになれていたら。
坂田の恋の相手に、なれていたら。
あのときの彼氏もなにもかもぜんぶ捨てて、坂田のいちばんになれただろうか。
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