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レーヤはすべて承知という顔をして、受け止めた焼き鳥をなんのためらいもなく自分の口に入れた。なぜだか挑むような目をしてくる。あたしの口の中に残ったキャベツの切れっぱしがショリ……と新鮮な歯ごたえで砕かれた。
自分より5歳も若い男の子に翻弄などされたくない、と妙なプライドがあたしの中で顔をのぞかせる。かといってこの挑戦的なまなざしから逃げ出すのも癪だった。
「……なまえ」
なんとかしぼり出した自分の声は、緊張のせいかかすれていた。
「え?」
「な・ま・え! どうせ“レーヤ”って偽名なんでしょ? 女を床に誘うなら誘うで、素性くらい明かすもんじゃないの? あとから病気とか妊娠とかごめんだからね!」
思いきり現実で叩きつけてやればだいたいの男は逃げ出してくれる、とは友人である斉木めぐみの弁だった。めぐみは不幸な事故で亡くなった恋人の子どもを産み、ずっとひとりで育てている。
「ちーちゃん、しっかりしてんなあ。偽名っていうか、源氏名やねん」
「源氏名? やっぱりプロなんじゃん」
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