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「行くって、どこへ」
「んー。おれんち、千佳さんち、それかラブホ。選択肢はそれくらい?」
「……それ本気で言ってるの?」
「本気やで。言い渋っても時間の無駄になるだけやしな。それにおれ、言い損はきらいや」
顔にはうっすらと笑みを浮かべているものの、布袋東也の目は真っすぐこちらを見て動かない。
さっき反抗的だったあたしのプライドが、むくむくと存在を主張し始める。
30を過ぎた女が、処女ぶってモジモジしているのは正直気持ち悪いものがある。身も心も成熟した女とは、どんな場面にあっても潔くあるべきだと思う。
さっきどさくさで布袋東也に焼き鳥をひとつ奪われたので、あたしのどんぶりはもう軽い。同じように残りをザッと口にかっ込んで、水を一気に飲んで流し込んだ。
お寒い言いかたは好きではないが、働く女の食事なんてもはや飲み物のようなものだ。
「わかった。元プロのお手並み拝見してあげようじゃないの」
「意外と決断早いんやな」
「言っとくけど、あたしだって期待が目減りするのはきらいだよ。ちゃんとメリットはあるんでしょうね」
布袋東也はいそいそと伝票を手に取り立ち上がりながら、おもしろそうに目を細めた。
「メリットならある。おれ自身。期待してて」
ここまではっきり言い切る男は、本当に珍しい。
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