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「あっちは結婚してしまって、子どもまでいるのに。まだなにか期待してるんですか?」
「そんなこと望んでないわよ。あたしは坂田には奥さん一筋でいて欲しい。彼にはそういうドロドロしたこと、似合わないもの」
坂田の結婚式の招待状を受け取ったときから、それは変わらない想いだった。たとえば彼が人の倫を違えるとして、その理由があたしだったとしたら、あたしはあたしを許さないと思う。ほかの女なら、きっともっと。
「でも、矛盾してますよ」
目の前に、淹れたてのコーヒーを差し出される。夏菜子はわかっている女で、お砂糖はちゃんと1杯半。受け取って一口飲んだ。
「わかってるわよ。自分の想いを叶える気なんてない」
いつもの香りに癒され、ため息に押し出されるようにつぶやいた。夏菜子も隣で同じようにコーヒーを飲み、自分のパンプスの先を見つめる。
「行き詰まってるように見えますよ。発想の転換とかあったほうがいいんじゃないですか?」
「発想の転換?」
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