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終業後、ビル内2階の“オンブル”で夏菜子と待ち合わせをすることになった。“オンブル”は入社以来よく通っているカフェだ。ここの店長の天川葵はあたしの後輩であるすみれの結婚相手で、あたしもよくしてもらっている。
店内に足を踏み入れるとコーヒーの強い香りが漂い、同時に仕事からの緊張感から解放されて思わずため息が出た。ちょうどフロアにいた天川くんが視界に入る。
「こんばんは、千佳さん」
はじめて出会ったころよりも男っぽくなった天川くんは、完璧な清潔感で出迎えてくれた。
「こんばんは。夏菜子と待ち合わせなんだけど、来てる?」
「夏菜子さんなら、今日は見てないです」
「あれ? あたしよりも先に着替えて会社を出たはずなんだけど」
「ああ……約束を破るような方ではないですもんね。座って待っててください」
「そうだね。じゃあいつものコーヒーもらおうかな」
「千佳さん、オーダーなんてべつにいいよ」
「ううん、飲みたいんだ」
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