423人が本棚に入れています
本棚に追加
/200ページ
やさしい天川くんに笑顔を返し、カウンターに腰を下ろす。いくら彼がすみれの夫の店とは言え、場所を借りるだけというのはさすがに非常識だ。
天川くんはカウンター越しに入り口にちらりと視線を走らせ、コーヒーを用意する。
「その後、初恋の君を超える人は現れました?」
どうやらすぐに夏菜子が現れないことを察した天川くんが、いつもの問いを口にした。
「ないない。そんなことあったら、あなたより先にすみれに話してる」
「まあ、そうでしょうけど。千佳さんがすみれに言う前に、今日とつぜん出会いがあったかも知れないし……」
「そんな幸せなことがあったら、後輩と待ち合わせなんてしてないって。もう枯れ果てそう」
あたしがそんなふうに返すのもいつものことなのに、天川くんは少し困った笑顔を浮かべる。
「……? え、なに? なによ、その顔」
「いえ。いつもの会話を……と思ったんですが」
「いつもの会話でしょ」
天川くんはフィルターを通っていくコーヒーに視線を落としてから、再びあたしの顔を見た。
.
最初のコメントを投稿しよう!