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呪文
それでも立ち上がる人たちはいた。「人間」を取り戻そうと世界各地で革命が起こった。母によって人間を途中から生きることができた俺も二十一歳の時それに加わった。
だが、無駄だった。もともと世界を自由にできた権力者たちに敵うはずなどなかったのだ。革命を起こした革命家は反逆者として次々に殺された。そして、もうすぐ俺の番だ。
なんとか一度は凌げたが、左腕はもう動かない。次の暗殺部隊で俺は確実に殺される。
この革命に参加した日から毎日母の事を思った。強く、優しく、そして人間として俺を育ててくれた大好きな母のことを。
そしてあの呪文を。
親死ぬ
子死ぬ
孫死ぬ
父が亡くなった頃から母はあの呪文を俺に唱えるようになった。人がどんどん死ぬ世界で育った俺は幼心に当たり前の事をなぜ母は毎日言い続けるのだろうと、ずっと疑問だった。
親死ぬ
子死ぬ
孫死ぬ
もう会えないかもしれない、そう思った俺の革命決起前夜、俺は母にこの呪文のことを聞いた。
「母さん、なぜ当たり前の事をずっと言い続けたの?」
そこで母が言った答えは俺の予想を裏切るものだった。この言葉は呪文などではなかったのだ。この愚かな世界で生きる母のたった一つの願いがそこには込められていた。
そして、そこで俺は母と一つの約束をした。本当は革命行為などに息子を出したくない母の精一杯の願いがその約束には込められていた。
親死ぬ
子死ぬ
孫死ぬ
俺は今その願いを叶える為、母のもとに帰った。
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