私を映す鏡 【短編】

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「まゆ、法事が終わったし、旨いものでも食いに行こうか? 何が食べたい?」  叔父の高瀬圭太の伸ばした手が、クシャリと頭を撫でた。  ”まゆ” と呼ばれると繭子(まゆこ)と呼ばれるよりも特別な気がして、切ない気持ちになる。  泣き出しそうな想いを隠して、圭太に笑顔を向け、左腕にグッと縋りつく。 そんな私に圭太は、仕方がないなぁと言う顔をして、右手でもう一度頭を撫でてくれた。   「じゃ、パンケーキ食べたい」    圭太を困らせるのを分かっていて口にした。  首の角度は、鏡で練習した通りに母に似る角度。 「あ、あのな、今日は法事で服が黒いだろ。それにアラサーのオッサンとパンケーキは、ないだろ? ん?」 「えーっ! なんでもいいって言ったのに……。なんてね! せっかくだから鰻でもご馳走になろうかな?」  掴んでいた腕をするりと離して、べーっと舌を出した。  圭太が笑いながら私を追いかける「オッサンを揶揄ったな」と、腕が私を捕まえて、頭をワシャワシャと撫でる。 「イヤーッ! 髪の毛がグシャグシャになる!」  若くして亡くなった父。そして、一昨年亡くなった母。  身寄りの無くなった私を引き取ってくれた父の弟の圭太。  親子とは少し違う微妙な距離感の二人暮らしは、ぎこちなくも温かい。    幼い頃から憧れた人。  とても優しい人。  今、私の好きな人。  でも、圭太はきっと母の事が好きだった。
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