40人が本棚に入れています
本棚に追加
/16ページ
「まゆ、法事が終わったし、旨いものでも食いに行こうか? 何が食べたい?」
叔父の高瀬圭太の伸ばした手が、クシャリと頭を撫でた。
”まゆ” と呼ばれると繭子と呼ばれるよりも特別な気がして、切ない気持ちになる。
泣き出しそうな想いを隠して、圭太に笑顔を向け、左腕にグッと縋りつく。
そんな私に圭太は、仕方がないなぁと言う顔をして、右手でもう一度頭を撫でてくれた。
「じゃ、パンケーキ食べたい」
圭太を困らせるのを分かっていて口にした。
首の角度は、鏡で練習した通りに母に似る角度。
「あ、あのな、今日は法事で服が黒いだろ。それにアラサーのオッサンとパンケーキは、ないだろ? ん?」
「えーっ! なんでもいいって言ったのに……。なんてね! せっかくだから鰻でもご馳走になろうかな?」
掴んでいた腕をするりと離して、べーっと舌を出した。
圭太が笑いながら私を追いかける「オッサンを揶揄ったな」と、腕が私を捕まえて、頭をワシャワシャと撫でる。
「イヤーッ! 髪の毛がグシャグシャになる!」
若くして亡くなった父。そして、一昨年亡くなった母。
身寄りの無くなった私を引き取ってくれた父の弟の圭太。
親子とは少し違う微妙な距離感の二人暮らしは、ぎこちなくも温かい。
幼い頃から憧れた人。
とても優しい人。
今、私の好きな人。
でも、圭太はきっと母の事が好きだった。
最初のコメントを投稿しよう!