私を映す鏡 【短編】

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 洋服の上から合わせただけの浴衣姿。  でも普段と雰囲気の違う私が鏡に映っている。  少し、大人っぽい。  これでメイクをしたらもっと綺麗かも知れない。  洗面台の鏡の扉を開け化粧ポーチを取り出し、ほんの出来心でメイクを始めた。  アイライナーを引き、アイブロウで眉を整え、  薄くチークを入れて、口紅を引くと大人の顔をした私が鏡の中にいた。  大人の顔をした私は、母にとてもよく似ている。  玄関の扉が閉まる音が聞こえた。  「ただいま、まゆー、いるのか?」  圭太の声と共にスリッパの足音がだんだんと近づいてくる。  どうしよう。こんな姿を見たら圭太はなんて思うんだろう。  ”子供が背伸びして”と呆れられてしまうかも……。  それとも私の事を好きになってくれる?  ガチャッとドアが開けられる。  圭太に見られた!  一瞬、ギュッと目を瞑る。   「まゆ……」  名前を呼ばれたのに、その後の言葉が無くて不思議に思い、おそるおそる目を開ける。  すると、私の姿を見て立ち尽くす圭太がいた。  私と視線が合い、圭太が慌てて目を逸らす。  あっ、と思った。  今、圭太は私ではなく、私を通して母の姿を見ているんだ。      
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