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「ごめん」という言葉を残して圭太はドアを閉めた。
心臓がドクンと音を立てる。
母によく似た自分の姿が洗面台の鏡に映っていた。
その姿が、だんだんと涙で歪んで見えなくなる。
自分で母を意識して似せていた癖に、傷つくなんてバカだ。
私の中の母の面影が圭太の心を捉えても、それは私を好きでは無く私の中の母が好きだという事。
私自身を好きになってもらわなければ、なんの意味も無い。
ポタポタと涙がこぼれ落ちていく。
好きと口に出して、思いっきり振ってもらえれば、あきらめる事が出来るかもしれない。
けれど、そんな事をしたら、このぎこちなくも心地の良い暮らしも無くなってしまう。
母が父との思い出で語っていた話を思い出す。
”ずっと言えずに片思いをしていた。幼馴染の心地良い関係を崩すのが怖かった”
今なら母の気持ちがわかる。
大切だから、想いが届かなくても守って行きたい関係があるって事を……。
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