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同じ空間にいることすら嫌で飛び出した初めての大学での一人暮らし。
これは、葉純にとって幸せであった。しかし、一人の時間が増えたことが家族のことを想起させるようになった。
これは、まさに棚からぼたもちと言える、意図していなかった出来事である。
離れていると浮かんでくるのは、兄でも母でもなかった。父との思い出ばかりだった。
後戻りできない暗いトンネルの出口が見えた瞬間だった。
嫌いが好きに変わるのに明確な境界線はない。
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「それで、葉純はいつ帰るんだ?」
「ん?こっちの友達とも会うし、あと一週間くらいはいるつもりだけど…」
父は、空になったグラスをテーブルにコトンと置くと目頭を人差し指で擦った。これは、葉純が小さい頃からみてきた昔からよくやる癖だった。
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