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ふたたび小銃を構え、スイッチを押して三点射撃から単射へと切り替える。
引き金を引く。
漿液と肉片が辺りに飛び散り、むっとする臭いが立ち込めた。
視界の隅に子供用の玩具が映る。自分のやっていることだって、目の前で事切れている侵獣と変わりないのだと思い知らされた赤尾は、ぐぅ、と喉奥から呻き声を漏らした。
けれど、生きるためなのだ。自分だけではない。可愛そうだからと情けをかければ、そいつは成長し、殖えて人類社会への脅威となる。
誰かがやらなきゃならないなら、おれがやる。あの発電所が出来てから、じいちゃんだってそうしてきた。
ぎりりと歯を食いしばり、ライフルの引き金を引く。孵りかけの卵から小さくか細い断末魔が聞こえるたび、吐き気が込み上げた。
ひしゃげた卵の隙間から、小さな翼と脚──オロチには無い筈のものが見えた気がした。
土足で踏み入った2LDKの間取りから出て、共用スペースの廊下に出たところで、急に暑さが戻ってくるように錯覚した。
少しずつ西に傾いているとはいえ、7月末の太陽の光は薄暗がりに慣れた目には眩しすぎて、目を細めた。
4階の渡り廊下から、稗倉市の長閑な街並みを見下ろす。
付近で高さのある建物は、このアパートを除いて他にはなく、3階建てがせいぜいだ。淡海県の南西部に位置するこの街の人口は8万人弱。
周辺で虚穴が観測されたことはなく、来訪種がみられること自体が珍しい土地だった。
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