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 そんな場所で、集合住宅の住人がほぼ全て侵獣に食い殺されるなど、起きるべきではないと赤尾は思わずにはいられなかった。  無論、日本の、いや、世界のどこでだって、こんな痛ましい事件は起こって良い道理は無いのは明白だったが。  数日にわたって続いた大雨がようやく上がり、青空に晴れ間が戻った日だった。気温は摂氏34度。午後の風は湿気とアスファルトの熱気を帯びて、うだるような蒸し暑さを街の隅々にまで行き渡らせていた。  空の低いところを、分厚い雲の切れ端が形を変えながら漂ってゆく。その雲の下、街並みの上空を大きな鳥が数羽、悠々と旋回するのが見えた。  ──鳥? いや、違う!  赤尾は目を(みは)った。視線の先にあるそれらは、確かに鳥に似た形をしている。前肢が変化した広い翼に、長い首。だが、鳥ならば全身が艶やかな鱗で覆われていたりはしないし、翼だって傘の骨に皮膜を張ったようなかたちではない。大きさだってそうだ。小型の飛行機くらいはある。  ヒリュウ(飛竜)だ。オロチと同じ竜種に分類される侵略的来訪種だが、一体どこから?  獲物を見定めたように急降下するヒリュウの姿に、我に返る。それとほぼ同時に、無線が入った。 『こちら第三小隊! 至急応援を頼む! 繰り返す! 至急応援をうわぁぁぁぁ!』  通信に混じって、怒号と悲鳴が漏れてくる。そして、散発的な銃声とヒリュウの甲高い咆哮が。 「畜生ぉぉぉ!」  赤尾は吠え声を上げながら、アパートの渡り廊下と階段を駆け下りた。
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