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 自分の吠え声で、赤尾は目覚めた。  (オロチ)はどこだと辺りを見回し、89式小銃を構えようとして──ようやく持っていないことに気が付いた。   ばたばたと振り回した手が、枕元に置いた携帯端末のディスプレイに触れる。点灯する画面の眩しさに目を細めながら、それを引き寄せて覗き込んだ。時刻表示はくだんの事件から4年あまりが過ぎていることを示していた。  アパートから逃げ出し、稗倉市に散らばったオロチを根絶するまで、長い戦いを要した。小さな街が受けた傷は大きく、未だに復興しきっていない部分もある。  カーテンの隙間から射し込む月明かりが、室内をぼんやりと照らす。  稗倉市から東に数十キロほど離れた神骸町(かむくろちょう)にある自宅、その自室だった。  最小限のものしか置いていない寝室は、防衛隊を除隊して2年あまりが過ぎた今でも、徹底的に叩き込まれた掃除と整頓の作法に基づいて、綺麗に片付いている。  布団の上に身体を起こし、汗でびっしょりと濡れたシャツを脱ぐ。再度ころんと寝転んだ姿勢でボクサーブリーフに手を掛けたところで、ドアをコンコンとノックする音があった。 「大丈夫か?」  くぐもって聞こえる抑えめの声は、小青田武(こおだ・たける)。赤尾が経営するシナト総合防除の従業員であり、同居人である。  本業は来訪種に関する研究機関である異界生物研究所(いかいせいぶつけんきゅうじょ)──通称を異生研(いせいけん)に籍を置く研究者で、フィールドワークの一環として、副業を兼ねて赤尾の下で働いている。ただ、現在のところ、どちらが本業なのか分からない状態になりつつあるのだが。 「悪ぃ、起こしちまったか」  仰向けに寝転んだまま、ドア越しに言葉を掛ける。  自分とは対照的に、万事にだらしがなく片付けも下手なくせに、裸や下着姿でうろつくと露骨に嫌な顔をすることをよく知っているが、特に気にせずパンツを脱ぎ捨てた。
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