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 二重被毛に覆われている身体は、裸でも服を着ているのと変わらないというのは、犬型の獣人──狗人である赤尾の持論だ。遠目から見れば、丸々と肥えた柴犬か秋田犬にしか見えない。とはいえ、公共の場で全裸にならない程度の常識と羞恥心はいちおう備えている。 「気にするな、アコ。この時間が一番頭が冴えているんだ。前にも言っただろう」  相棒の返答に、赤尾は溜息で応える。自らを夜行性と言ってはばからない小青田は、夜中に何やらごそごそと活動する代わりに、昼間や夕方は眠っていることが多い。 「さっさと寝ろよ、コーダ。明日も8時には朝飯だかんな。寝てたら無理やり起こすぜ?」  時刻は午前3時過ぎ。8時に出来上がるようにするには、もう少し早く起きなくてはならないだろう。 「スクランブルエッグはあるか?」 「おう。チーズと生クリームたっぷり入れたヤツ作ってやるよ」 「楽しみだ。起きられるよう善処しよう」  言葉はそこで途切れた。  だが、ドアの向こうからは小青田の匂いと気配が漂ってくる。赤尾は弾みを付けて上体を起こし、呼んだ。 「コーダ?」 「どうした?」 「思い出した。侵獣のことで、聞きたいことがあるんだ」 「分かった。入るぞ」  開いたドアから漏れる廊下の灯りに目を細める。痩躯の青年が顔を出すも、部屋の主が全裸と知るや、あからさまに嫌そうに顔をしかめて、バタンと乱暴にドアを閉めた。 「うん?」 「まず服を着ろ。せめてシャツとパンツだけでも。話はそれからだ」 「あー、はいはい。こらしょっと。めんどくせーなー」  ドアの向こうの相棒に聞こえるように、さも面倒くさそうな仕草で立ち上がった赤尾は、洗いたてのタンクトップとボクサーパンツを取り、これまた大儀そうに身に付けた。
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