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 薄暗いアパートの一室。  鎌首をもたげて威嚇するヒフキオロチ(火吹大蛇)を前に、赤尾一冴(あこう・かずさ)陸士長は吶喊(とっかん)し、89式自動小銃の引き金を引いた。 「うぉぉぉっ!」  バースト機能により射出された3発のホローポイント弾は、敵が高温に加熱する化学物質──既存の物質の中では、ベンゾキノンに組成や性質が似ていることが判明している──を口から噴射するより先んじて、頭に1発、胴体に2発着弾。  体長5メートルを軽く超えるであろう巨躯を、ずたずたに引き裂いた。  目標が沈黙したのを見届け、赤尾は他の狗人種(くじんしゅ)の隊員たちがそうするように、快哉の唸り声を漏らした。弾を無駄撃ちせず、頭を確実に狙う。教習で学んだ通りだ。  侵獣を含む来訪種(らいほうしゅ)──虚穴(うろあな)と呼ばれる次元の裂け目を通じて、この世界へと流れ着くとされる異界原産の生物たちは、この世界の生物とは異質な生理生態を持つ。  この巨大な蛇に似た来訪種もまた、いまだ人類が完全に解明していない仕組みに基づいて、急激な成長や再生をやってのける。弾丸(たま)を浴びせただけでは即座に復活し、返り討ちに遭う。だから確実に頭を潰さねばならないのだと、耳にタコができるほど聞かされた。  溯ること数日前、このアパートの住人が相次いで消息を絶っていることが判明した。警察による調査の結果、複数個隊のオロチが発見され、すぐさま赤尾たち陸上防衛隊 淡海駐屯地(りくじょうぼうえいたい・あわみちゅうとんち)の隊員に治安出動の要請が掛かった。  付近では虚穴の出現例もなく、専門家たちは一体どこから来たのかと頭をひねったが、理由はすぐに判明した。このアパートの住人のひとりが、オロチの卵をどこからか手に入れて孵化させ、育つ様子を動画投稿サイトにアップロードしていたのだ。  不幸にも、この動画配信者はまったくの無名であり、それが侵獣の存在に気付くことへの遅れにつながった。
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