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出た声はしわがれていて、彼女に届いたのかわからない。だけど、彼女の口からは思いもよらない言葉が出てきた。
「城田くん?」
「え?」
ぼくは思わず聞き直した。なぜ彼女がぼくの名前を?
「ほら、中学の時。同じクラスだった。川奈だよ」
――川奈? この名前を聞いてすぐには顔が出てこなかった。しかし、浮かび 上がった顔は彼女とは重ならなかった。
「……そうだよね、わたしはかなり見た目が変わったよね。わたし、プチ整形をしてて二重にしたり、フェイスラインを細くしたり、エステにも通って見た目を変えたの」
ぼくは目の前にいる彼女が纏っていた美しさが造られたものだとわかると、今まで抱いていた気持ちが消えた。ぼくはまた着ぐるみの被りものを被り、沈黙した。
「……さっきのこと、特に上の人に言わないし、他の人にも何も言わない。だから……お互い仕事に集中しましょ?」
ぼくは頷いた。そして、いつもの彼女の案内で子ども達が待つ場所へと向かった。
この目の前で、笑顔でいる子どもや大人は知らないだろう。ぼくがこの“ラッキー”の被り物の中で涙を流しながら、君たちを笑顔にしていることを。
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