ラッキーの瞳の奥

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 正直、このラッキーとして働くのは相当きつい。着ぐるみの中は蒸し暑く、冬でも汗は滝のように流れる。ラッキーの頬の下にある小さな穴からの空気が入ってくるにしても、酸欠であるのには変わらない。また、着ぐるみは重く、歩くだけで一苦労だったが、今では毎日のように着ているため、小さい体に似合わない筋肉質になった。  しかし、ぼくにとってこの仕事は天職だった。それは誰にも顔を見せなくていいからだ。  ぼくは自分の顔を見る度に、家族がぼくを捨てた理由がよくわかる。この遊園地で産み、捨てられ、警察にも届を出したらしいが親は現れることはなかった。まだ産声を上げたばかりの赤ん坊に救い手の出してくれたのがこの遊園地の園長だった。見ず知らずの赤ん坊の養子になると申し出た。成長していくぼくに喜びの笑顔を向けてくれるのは園長だけだった。しかし、一歩外の世界に踏み込むとぼくに言葉の棘が刺さる。
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