ラッキーの瞳の奥

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 「ラッキー、間もなく出番です。今日もよろしくお願いします」  彼女の声で着ぐるみの被りものを被っている自分に戻った。息苦しく、そして、暗い。籠った中でも彼女の声は耳に届く。ぼくは彼女を見て、そしていつものように頷いた。  「今日は暑いですね」  立ち上がりながら、彼女はぼくに声をかけた。ぼくは少し戸惑い、頷くだけだった。  「今日のリーダーが気を使って、みんなに飲み物を買ってきてくれたらしいですよ。休憩所にあるので、あとでもらいに行った方がいいですよ」  彼女は他愛もない話をした。きっと、ぼくも顔をなかなか見せないだけで、みんなと同じバイトだと思っているらしい。そう思っているままでいたい。その気持ちを胸にまた、頷いた。そして、また今日も彼女はぼくの前を歩き、子どもたちの前に向かった。
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