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 店員さんはかごに入っていた商品のバーコードもすべて通し終えると、 「十八点で千五百円でございます」 「二千円でお願いします」 「二千円お預かりいたします。五百円のお返しとレシートでございます。ありがとうございました。またお越しください」  渡された二つのレジ袋を左手で持ち上げた私は踵をかえした。そのまま外へ出ていこうとしていたとき、突然背後からレジ袋をひったくられた。すわ強盗かと思ったが、いや違うとすぐに考え直す。渉くんだ。私は驚きのために肩が少し震えてしまったのが恥ずかしくて、 「もう、びっくりしたじゃん」  と、唇を尖らせながら拗ねるように言った。 「僕が持つから」 「いいって。つきあわせたの私だし」 「ええ、女の子だけに重い物なんて任せられないよ」 「別に重くない――」  私は時々、渉くんをずるいと思うことがある。そんな優しい台詞をどうして簡単に言えるの。私以外にも言っているの。その甘い顔を、私以外にも見せているの。  いや、やめよう。嫉妬は醜い。他人を完全に理解できる人間なんていない。少なくとも今、彼は私の隣にいてくれている。それだけで十分だ。  「ああ、もう、わかった。でもおでんは返して。自分で持ちたいから」 外は相変わらず、湿気を多くはらんだ空気で満ちていた。  無事におでんも買えたのだからまっすぐ家に帰ってもよかった。けれど謎の名残惜しさのようなものと、夜久しぶりに外へ出かけたことで妙な高揚感も覚えていた私は、 「ねえ、ちょっと寄り道してこうよ」  気づけばそう提案していた。 「寄り道」 「この近くに公園があったじゃない。そこを少し散歩してから帰ろうよ。どうせ明日も休みなんだし、ね?」  今度は私が、渉くんの顔を下からのぞきこんで聞いた。目を細められたため、また断られるかもと思ったけれど、帰ってきた返事は色よいものだった。 「いいよ。それにどうせ喜久子は、一回言い出したら人の話聞かないから」 「よし、じゃあ行こう」  来た道は戻らず、そのまま先へと進んだ。ちょうど角を右に曲がろうとしたとき、 「あっ、すみません」 「いえ、こちらこそ」  むこう側から歩いてきていた人とぶつかりそうになった。渉くんがとっさに私の腕を引いてくれてなかったらきっと、一方または両方が転んでいただろう。危なかった。
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