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こいつは生意気に抵抗してきただけでなく、「来ないで」と叫んだ。来ないでだって? 見つけたのは旦那よりひ弱で小柄で醜い女……? 女なのか。殴ってもいないのにいびつにはじめから歪んだ醜い顔だったので女にはとても見えない。
面白いので少し観察しようと思った。具体的な恐怖の体験を声に出して聞かせてもらえるなんて貴重な経験になる。
欲しいものをくれるそうだ。俺が今欲しいものは経験と、力と、金。
床に転げさせて旦那の割れた顔を拝ませる。脇腹を蹴る。こいつの身体はとても軽く飛んでいく。赤子より軽いかと錯覚するほどで、感触も骨と皮だけだった。
「欲しいもの?」
こいつは死にゆくだけだろう。お前に俺の欲しいものを自ら提供できるのか? 無理だろうから、なぶり殺そう。顔を蹴り、背中を踏みつける。すでに骨が折れていたようで面白みにかける。事故で死なれたら困る。こいつは俺の手で息絶えてもらう必要がある。
「何を渡すって?」
歯の抜け落ちた唇の間から唾液が糸を引いている。醜いうえに汚い、臭いときたら生きていても意味がないだろう。欲しいものを全部くれると言うが、そのつもりで来たのだからお前に懇願されるような言い方をされたところで、俺は好きにやるだけだ。
部屋を見回す。息が詰まるような閉塞感。沼の中で暮らしたって、むせるような臭いにならないだろうに。こいつらは糞にまみれて暮らしているのか。ごみくずめ。
奥の台に手編みのかごがある。ベールで上から覆われているそれが、ゆさりと動いた。
「だ、だめ!」
なにを絶望的な声で叫ぶのやら。中身は何かな。これは驚いた。赤子だ。ごみの子だ。親とそっくりでぶさいくだな。生まれながらにして生きる価値なし。これは確かに絶望するしかない。
「待って! その子だけはやめて。私の赤ちゃんだけは殺さないで!」
俺は赤子に触れるのも汚物みたいで嫌なので、かごを持ち上げる。すると、自称母親のこいつは這いつくばって俺の足にすがってきた。
「お願い! 何でもあげるから!」
「金は?」
言い淀んだところを見るにそういう高価なものはないらしい。当然だろう。俺もたかれるとは期待していない。だったら金は作るしかないよな。ひとまず赤子は台に戻す。
醜い女の手を取ってやろうじゃないか。
狩猟用ダガーを取り出してそのごつごつした指にあてがうと、こいつは悟って涙をこぼした。
「や、やめて……そんなことしないで」
爪の付け根からダガーを力任せに押し込んで、てこの原理で爪を浮かす。爪を十本持ち帰ることにする。こいつは、泣き虫なので耳元がうるさくて仕方がない。黙らせるために顔面も殴って横になってもらう。
爪を全部布袋に詰めて、今度は虚ろな瞳のごみくず女の黄ばんだ歯に取りかかる。
「こ……今度は……な、何するの?」
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