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もう耐えられない。爪だけでなく肉まで抉られている。意識が飛びそう。泣き叫びすぎて喉が潰れた。殴られた。鼻が折れた……。鼻血が喉まで垂れてきてしみる。
男が私の指からやっと離れてくれた。私の爪を持ち帰るらしい。私の口をつかむ男。
「こ……今度は……な、何するの?」
私の口に押し込まれるダガーナイフ。歯茎を左右にのこぎりのごとく押し引きする。やめて! お願い!
痛みを通り越して私は上半身をよじって泣き叫ぶ。
「歯を抜く道具を持ち合わせていないから。大人しくしてくれないと俺もどこをどう切るか分からない」
淡々と私の口の中は刃物でかき回された。喋ろうとして、頬をナイフが突き抜ける。涙が穴の空いた頬から口内に入ってきた。
私の歯は歯茎ごとごっそり奪われた。もう話す気力もない。だけど、これだけは言ってやった。
「人でなし」
男は今までずっと無表情を決め込んでいたのだがはじめて私にうっすらと笑みをこぼす。
「ごみに言われたくない」
私の耳も切り落とされた。もう痛みなんて感じない。右耳も左耳もくれてやる! ちょっと待って。お腹には何もないのよ。
男は私の布切れの服をめくるとナイフをかざして思案する。
「内臓は高く売れるかな」
でも私の顔を見るなり男はまた無表情に戻った。
「がりがりだから駄目か」
男は私に興味を失い、足を私の赤ちゃんの方に運ぶ。
男は私から爪と歯を奪っただけじゃ飽きたらない! そのことに思い至った私は、力の限り叫んだ!
「やめなさい! 命は尊いものなのよ! あなたに私とその子を殺す権利はないわ!」
男は、ああと上の空で返事をする。
「赤子は尊い存在だ。だから見世物小屋に売る」
私は最後の力で男の足に歯のない口で噛みついた。男は私に手をかざして炎上魔法を放った。
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