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3-70
悠がこちらを向き、僕の肩に手を乗せる。ドキドキしながら僕は目を閉じて悠の唇が降ってくるのを待つ。柔らかいものが唇にあたり、悠の顔が離れていく。その時に、悠は僕にもギリギリ聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で、僕の耳に囁いた。
「一生愛することを誓う。薫を溶かすように」
僕を溶かすように?
「その言葉で溶けちゃいそう……」
かぁぁっと頬が熱を持つのを感じる。悠がかっこよすぎて、僕の心臓もたないかも。
離れていった悠のふふっと笑う声が降ってくる。俯いて顔が赤いのを隠そうとするが、たぶん耳まで真っ赤だろう。
確かに悠は僕の心の中に積もっていた雪を溶かしてくれた。那のことで人間を憎む気持ちがなかったわけじゃない。でも、まるで春の暖かい日差しで雪が溶けるように、悠がゆっくりと僕の心を暖めてくれた。その上、人間と結婚するなんて、あの時の僕には考えられなかっただろう。
人間国に来てよかった。今なら心の底からそう思える。悠たちに出会えて、本当によかった。
「悠」
僕は顔を上げ、愛しい人の名前を呼ぶ。
「どうしたん……」
だ、と言い終わる前に、精一杯背伸びをして悠の頬を両手で包み込む。
「僕も。悠のこと、一生愛するから覚悟しててね」
それと同時に、僕から口付ける。悠はあっけに取られた様子だったが、すぐに僕をぎゅーっと抱きしめる。そしてそのまま僕をお姫様抱っこする。
「うわぁ!」
悠を動揺させようとしたのに、やっぱり僕が動揺させられている。敵わないな、この王子様には。
悠は僕をお姫様抱っこしたまま、みんなの方に向き直る。
「みんな、俺たちのために素晴らしい結婚式を企画してくれて、ありがとう。これからもよろしく」
拍手が建物の中に響く。ステンドグラスから降ってくる光は、まるで僕たちを祝福するかのように、静かに僕たちを暖める。
僕は密かに決意する。僕が悠に溶けちゃうくらい愛される前に、悠が溶けるほど愛することを。
完
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